中小企業経営に過剰な財務指標管理は不要です

 経営の状態を財務面から分析する場合に使用されるのが財務指標です。代表的なものは、企業の安全性を見る流動比率や自己資本比率、収益性を見る各種利益率、効率性を見る各種回転率などがあります。銀行の格付も財務指標によってランク付けしています。
 当然ながら財務指標が良い方が好ましいのですが、中小企業の場合、あまり財務指標を意識した経営をする必要はないと思います。

 例えば、企業の安全性を見る代表的な財務指標に自己資本比率があります。他人資本(借入)を活用して積極的に事業拡大を目指す企業よりも、自己資本の範囲内で小さく事業をまとめている企業の方が、数値が良くなる傾向があります。経営の本当の目的は「世界中の患者を救う医療機器メーカーになること」であったとしても、自己資本比率を気にしすぎていては、いつまでたっても家内工業から脱却できません。

 経営はシンプルに考える方が上手く行くようです。数ある財務指標を複雑に考えるのではなく、中小企業の場合、目標とする財務指標を「現預金月商比率」だけに絞ってみてはいかがでしょうか。

 現預金月商比率とは、月商の何ヶ月分の現預金を持っているかを表した指標です。この指標に着目する理由は、経営目標を達成するためには、単純に「お金が必要」だからです。「店舗を出す」「機械を買う」「優秀な人材を雇用する」…「お金」が必要です。

■「現預金月商比率」を上げる代表的な方法は以下になります。
・利益を出す。
・売掛金を早く回収する。
・支払いを遅くする。
・借入をする。

 仮に「売上高伸び率」を目標とした場合、値引きや分割払いに応じてまで「売上高」に固執してしまうことがあります。借入が容易にできる中堅中小企業や大企業はそれでも良いかもしれませんが、借入が簡単ではない中小企業にとっては、手元資金が目減りする要因になります。中小企業の財務指針は「売上高が増えるかどうか」
よりも「手元現預金が増えるか否か」であるべきです。

 目標の程度加減ですが、最低でも月商の1ヶ月分程度の現預金は常時保有しておきたいものです。最初のうちは現預金の中身が借入れでも構いません。次に月商の3ヶ月分が持てるようになったら、2か月分を投資してさらなる現預金の増加を狙います。

 このサイクルを、規模の拡大を伴いながら繰り返していったとき、全ての財務指標が良い数値になっているはずです。

2016年08月29日